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神戸地方裁判所 平成10年(ワ)2837号 判決 1999年8月04日

原告

小山和子

ほか三名

被告

荒井哲也

ほか一名

主文

一  被告らは各自、

1  原告小山和子に対し、金七六八万四七七二円及びこれに対する平成一〇年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

2  原告小山隆士に対し、金三五五万二三二四円及びこれに対する平成一〇年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を、

3  原告小山満鈴及び原告小山陽久に対し、各々金二九四万四九二四円及びこれに対する平成一〇年二月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を

それぞれ支払え。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その二を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行できる。

事実及び理由

第一原告らの請求

被告らは各自、

一  原告小山和子(以下「原告和子」という。)に対し、金二四五八万五四三三円及び内金二三九六万四三三円に対する平成一〇年二月一八日から、その余の金員については訴状送達の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を、

二  原告小山隆士(以下「原告隆士」という。)に対し、金一二六一万二一六三円及び内金一一九八万七一六三円に対する平成一〇年二月一八日から、その余の金員については訴状送達の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を、

三  原告小山満鈴(以下「原告満鈴」という。)及び原告小山陽久(以下「原告陽久」という。)に対し、各々金八九四万五一四四円及び内金八三二万一四四円に対する平成一〇年二月一八日から、その余の金員については訴状送達の翌日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を、

それぞれ支払え。

第二事案の概要

本件は、後記の交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した小山武夫(以下「亡武夫」という。)の妻子である原告らが、被告荒井哲也(以下「被告荒井」という。)に対しては民法七〇九条に基づき、被告荒井の使用者である有限会社鮮魚永井(以下「被告会社」という。)に対しては民法七一五条に基づき、損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  本件事故の発生

日時 平成一〇年二月一八日午前六時五分ころ

場所 神戸市兵庫区東山町二丁目一番八号先交差点(以下「本件事故現場」という。)

被害者 亡武夫(本件事故当時七〇歳)

加害車両 普通貨物自動車(姫路四一き七七五五)

運転者 被告荒井

登録名義人 被告荒井

態様

信号機により交通整理の行われている本件事故現場の交差点を北から南に向かい直進中の加害車両の前部が、右交差点の出口側横断歩道を西から東に向かい横断歩行中の亡武夫に衝突して、亡武夫は路上に転倒した。

2  亡武夫の受傷・死亡

亡武夫は、本件事故により左耳介裂傷、肺挫傷等の傷害を受け、平成一〇年二月一八日から神戸市立中央市民病院に入院していたが、同年三月七日午後零時八分ころ右病院において、本件事故に起因する多臓器不全のため死亡した。入院期間は合計一八日間であった。

3  被告らの責任原因

被告荒井は、本件事故現場の交差点を直進するにあたり、制限速度五〇キロメートル毎時を守り、前方左右を注視して、進路の安全を確認し、かつ、右交差点の出口にある横断歩道上の歩行者の有無及びその安全を確認して進行すべき注意義務があったにもかかわらず、これを怠り、右前方注視を欠いた上、時速七〇キロメートルの高速度で漫然と進行した過失があるから、亡武夫の傷害・死亡による損害について民法七〇九条に基づき損害賠償責任を負う。

被告会社は被告荒井を雇用しており、本件事故は、被告荒井が出勤途中に起こした事故であるから、被告会社は、亡武夫の傷害・死亡による損害について民法七一五条に基づき損害賠償責任を負う。

4  相続

原告和子は亡武夫の妻、原告隆士は同人の長男、原告満鈴は同人の長女、原告陽久は同人の二男であるところ、他に相続人はいない。よって、それぞれの相続持分は、原告和子が二分の一、原告隆士、原告満鈴、原告陽久が各六分の一である。

二  争点

1  過失相殺の要否・割合

2  原告らの損害額全般

第三判断

一  争点1(過失相殺の要否・割合)について

1  証拠(乙二ないし八、被告荒井)によると、次の事実が認められる。

加害車両が南進していた南北方向の道路は車道幅員が約一五・七メートルある片側二車線の道路で、北方六〇〇メートルほどからはほぼ直線で下り勾配の、見通しの良い道路である。時速五〇キロメートルの速度制限が行われているが、被告荒井は、他車と同様に七〇キロメートルほどの速度で、第二車線を進行していた。

この道路は毎日の通勤に通行するところ、本件事故現場の交差点に差しかかった際、左方道路から信号を無視して南行き道路に進出してくる車両を時折経験していたことから、左方道路を見ながら進行し、前方に視線を戻したとき、前方の横断歩道を右から左へ横断している亡武夫を発見したが、時遅く、亡武夫を撥ね飛ばした。

本件事故の数秒ないし十数秒前から本件交差点の南北方向の信号は青色で、本件事故直後にも、南北方向に車両数台が行き交っていて、南北方向の信号は青信号を維持しており、従って、亡武夫が横断していた横断歩道の、歩行者用信号は赤であった。

二月半ばの午前六時ころであり、晴天ではあったが未だ暗く、加害車両は下向きにヘッドライトを点けていた。亡武夫は建築作業員として稼働しており、その出勤途中であったが、冬のことで黒っぽい衣服であった。

なお、被告荒井は、亡武夫発見後直ちに急ブレーキをかけたと述べるが、現場にはブレーキ痕は残っていない。事故直後の実況見分における被告荒井の説明では、発見地点から衝突地点まで二五・一メートル、衝突地点から停止地点まで一七メートル余もあり、衝突を回避するための措置が取られたかは、不明である。

2  以上の事実によると、被告荒井が青信号で本件交差点に進入し、亡武夫が赤信号で横断しようとしていたのであるから、亡武夫には重大な過失があることは明らかであるが、被告荒井においても、自動車運転者としては第一次的には信号の表示を信頼して運転をすれば足りるとはいえ、歩行者が赤信号にもかかわらず横断歩道を横断することは予測できないことではないから、冬の早朝で交通が閑散としていることに気を許し、制限速度を大きく上回る速度で運転し、かつ前方不注視の状態で進行した過失があると言うべきである。

右事情を彼此勘案すると、本件事故については、亡武夫の過失が六〇パーセントは原因しているものとして、過失相殺を行うのが相当である。

二  争点2(原告らの損害額全般)について

1  入院雑費 一万八五〇〇円(請求同額)

亡武夫は前記のとおり、平成一〇年二月一八日から同年三月七日まで一八日間入院して死亡したが、証拠(甲五)及び弁論の全趣旨によれば、亡武夫は入院中病衣を使用し、その使用料として、長男である隆士が、合計一万八五〇〇円を神戸市立中央市民病院に支払ったことが認められる。

2  亡武夫の死亡による損害

(一) 逸失利益 計一二五四万八八六三円(請求一五九二万〇八六五円)

(1) 給与所得の逸失利益

証拠(甲二の一、乙五)によれば、亡武夫は死亡時七〇歳であったが、現に株式会社三宅建設に建築作業員として勤務しており、平成八年度の給与収入は三一六万八五〇〇円であったことが認められる。

なお、建設作業員が一般的に肉体労働で、ある程度の体力を要する仕事であるとはいえ、証拠(乙五)によると、亡武夫が健康に日頃から気を使う人物で死亡時に特に持病がなかったと認められるから、簡易生命表による七〇歳の平均余命一三年の、およそ半分の七年(新ホフマン係数は五・八七四)程度は、就労可能であったとするのが相当である。

また、証拠(乙五)によると、亡武夫は三人の子があるがいずれも独立しており、妻たる原告和子(無職)と二人暮らしであったことが認められ、後記の年金収入及びこれに対する生活費控除をも考慮すると、右稼働期間中の稼働収入に対する亡武夫の生活費控除割合は四〇パーセントとするのが妥当である。

以上をもとに計算すると、給与所得の喪失による逸失利益は一一一六万七〇六一円である。

3,168,500×(1-0.4)5.874=11,167,061

(2) 年金受給権喪失による逸失利益

証拠(甲二の二)によれば、亡武夫は老齢基礎年金・老齢厚生年金を合わせて年七〇万三四九四円を受給していたことが認められ、また、平均余命は前記のとおり一三年(新ホフマン係数は九・八二一)である。

そして、右年金額からすると、年金はその大部分が自身の生活費として費消されると考えられるので、生活費控除割合を八〇パーセントと考えるのが妥当である。

以上をもとに計算すると、年金受給権喪失による逸失利益は一三八万一八〇二円となる。

703,494×(1-0.8)×9.821=1,381,802

(二) 葬儀関係費用 一五〇万円(請求三六四万八五一九円)

前記のとおり、亡武夫は死亡時七〇歳であり、株式会社三宅建設に勤務し、原告和子と二人暮らしであったこと等の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係があるとして被告らが負担すべき葬儀関係費用は一五〇万円をもって相当とする。

なお、原告らは、右費用は、すべて原告隆士が負担したと主張しているので、葬儀関係費用に関する損害賠償請求権は原告隆士が有するものとする。

(三) 亡武夫に生じた死亡慰謝料 二〇〇〇万円(請求二八〇〇万円)

前記のとおり、亡武夫は、死亡時七〇歳という高齢であったが、健康であり、会社勤務もしていたことが認められ、事故に遭わなければ、退職時までは仕事に積極的に取り組んでいたであろうこと、退職後はその余生を楽しんだであろうことが推測できる。

そうすると、亡武夫に生じた死亡による慰謝料としては、二〇〇〇万円が相当である。

(四) 原告ら固有の慰謝料

原告和子 二〇〇万円(請求同額)

その他の原告 各一〇〇万円(請求同額)

証拠(甲三の二、乙五)によると、原告和子は長年亡武夫と連れ添い、子供を三人もうけ、死亡時も亡武夫と一緒に暮らしていたことが認められ、その他諸般の事情を考慮すると、その固有の慰謝料としては、二〇〇万円が相当である。また、亡武夫の子らの固有の慰謝料としては、諸般の事情を考慮すると、それぞれ、一〇〇万円が相当である。

3  相続等

以上により、1の入院雑費及び2(二)の葬儀関係費は原告隆士の損害となり、2(一)の亡武夫の逸失利益及び慰謝料の合計三二五四万八八六三円については、相続分に従い、原告和子が一六二七万四四三一円、その他の原告が各五四二万四八一〇円づつ相続し、さらにそれぞれ固有の慰謝料を取得することになり、結局、原告和子の損害は一八二七万四四三一円、原告隆士の損害は七九四万三三一〇円、原告満鈴、原告陽久の損害は六四二万四八一〇円となる。

そして右結果に、第三の一で認定したとおり、本件事故について亡武夫の過失割合六〇パーセントの過失相殺を行うと、原告和子が七三〇万九七七二円、原告隆士の損害は三一七万七三二四円、原告満鈴、原告陽久の損害は二五六万九九二四円(原告ら合計一五六二万六九四四円)となる。

5  弁護士費用 一五〇万円(請求二五〇万円)

本件事案の内容、訴訟の経過、右認容額その他諸般の事情を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用としては総額一五〇万円と認めるのが相当である。なお、弁論の全趣旨によると、原告らは、各自均等に弁護士費用を負担するものと認められるから、原告らの弁護士費用に関する損害額は、各自三七万五〇〇〇円であり、これを右認定の損害に加算することとする。

三  以上の次第で、原告らの請求は、主文第一項の限度において認容すべきであるが(なお、遅延損害金については弁護士費用を含めて、事故発生の日から発生するものと解すべきであるから、原告らの請求を越えない以上、一律に、事故発生の日からの遅延損害金を認容する。)、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、六四条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下司正明)

(別紙) 損害計算書 10-2837

請求額 認容額

1 入院雑費 18,500(a) 18,500(a)

2(一) 逸失利益 15,920,865(b) 給料 11,167,061

年金 1,381,802

計 12,548,863(b)

(二) 葬儀関係費 3,648,519(c) 1,500,000(c)

(三) 本人慰謝料 28,000,000(d) 20,000,000(d)

(四) 固有慰謝料

和子 2,000,000(e) 2,000,000(e)

他の原告 1,000,000(f) 1,000,000(f)

3 まとめ

和子 ((b)+(d))×1/2+(e)=23,960,433 ((b)+(d))×1/2+(e)=18,274,431

隆士 ((b)+(d))×1/6+(f)+(a)+(c)=11,987,163 ((b)+(d))×1/6+(f)+(a)+(c)=7,943,310

満鈴・陽久 ((b)+(d))×1/6+(f)=8,320,144 ((b)+(d))×1/6+(f)=6,424,810

4 過失相殺

和子 ………… ×0.4=7,309,772

隆士 ………… ×0.4=3,177,324

満鈴・陽久 ………… ×0.4=2,569,924

5 弁護士費用 各625,000 各375,000

和子 =24,585,433 =7,684,772

隆士 =12,612,163 =3,552,324

満鈴・陽久 =8,945,144 =2,944,924

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